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東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)154号 判決

原告

古川仁郎

右訴訟代理人弁理士

松田喬

被告

河辺武知

右訴訟代理人弁護士

緒方勝蔵

主文

特許庁が昭和五〇年一〇月一七日同庁昭和四五年審判第一〇五八号事件についてした審決を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判〈省略〉

第二  請求の原因

原告訴訟代理人は本訴請求の原因として次のとおり述べた。

(特許庁における手続)

一、原告は、「日曜夕刊」の漢字を左から右に横書きして成り、第二六類「新聞」を指定商品とする登録第七三二二六七号の商標(昭和三九年一二月一〇日登録出願、昭和四二年一月三一日登録。)につき、昭和四五年二月四日その商標権者たる被告を被請求人として、旧商標法(昭和五〇年法律第四六号による改正前のもの。以下同じ。)第五〇条第一項により、不使用を理由とする商標登録取消の審判を請求(昭和四五年審判第一〇五八号)したところ、特許庁は昭和五〇年一〇月一七日右請求は成り立たない旨、主文第一項掲記の審決をし、右審決の謄本は同年一一月二九日原告に送達された。なお、被告は昭和五一年八月六日商標権の存続期間の更新登録の出願をした。

(審決の理由)

二、右審決は次のように要約される理由を示している。

審判請求人(本件原告)の請求の理由は、本件登録商標は、継続して三年以上日本国内において、商標権者、専用使用権者及び通常使用権者のいずれによつても、その指定商品について使用されていないから、旧商標法第五〇条第一項の規定により、その登録を取消されるべきであるというにあるが、右商標不使用の事実については、その立証の責任がある請求人においてなんら挙証するところがなく、これを認めることができない。〈以下省略〉

理由

一前掲請求の原因事実中、被告に商標権のある登録商標について、その構成、指定商品、登録年月日及び存続期間の更新登録出願、原告の登録取消審判の請求から審決の成立に至るまでの特許庁における手続並びに審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。

二そこで、右審決の取消事由の有無について判断する。

(一)  〈証拠〉を綜合すれば、被告は、東京都杉並区和泉町に店舗を設け、同区、世田谷区及び渋谷区の各一部の購読者を対象として朝日新聞の取次販売業を営むものであるが、本件商標の登録出願中の昭和四一年四月頃から登録後の昭和四四年九月半頃までの間、時には中断したりしながらも、概ね月三回位一般日刊紙の夕刊がない日曜日に、顧客に対するサービスのため、「朝日新聞和泉町専売所」の肩書を付した被告の発行名義をもつて、「日曜夕刊」と題し、既刊の朝日新聞に掲載された記事の中から再度読者に知らせたい事実を抜き出し、または、近所の面白いニユースを取り上げて記事とし、わら半紙の片面に謄写版刷りにした印刷物を毎回五〇〇部位宛作製したうえ、店頭の新聞販売用スタンドに入れて置き、不特定多数の希望者に自由に取らせて無料で配布したこと、しかし、被告がその他に右商標を使用したことはないこと、また、被告は、右商標権について、昭和四四年九月一六日尾形晃に対し、期間同日から昭和四七年八月末日まで、地域関東地域一円、対価一か月金五万円毎月十五日前払の約で専用実施権を設定したが、それは、夕刊日曜株式会社が「夕刊日曜」だんち版という名称の新聞を発行するについて本件商標権者たる被告から類似商標の使用として苦情が出ることを恐れ、その役員の尾形晃に依頼してその個人の資格で、専用使用権を取得させたものであること、なお、同人はその後三回位にわたり株式会社サンデープレスから本件商標使用の対価名義で金二〇万円宛の支払を受けたが、それは、夕刊日曜株式会社の関係者の一部により設立された株式会社サンデープレスが同様に「夕刊日曜」だんち版という名称の新聞を発行するについて、本件商標権者たる被告から類似商標使用といわれることを回避しようとしたものであること、そのような事情のため、夕刊日曜株式会社、株式会社サンデープレスは、両社とも「夕刊日曜」という名称の新聞を発行した事実はあるが、「日曜夕刊」という名の新聞を発行した事実はないこと、そして以上の他、本件商標権につき専用使用権者または通常使用権者は存在しないことを認めることができ、被告本人の右認定に反する供述部分は前示証拠に照らし信用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  右認定の事実について考えれば、被告が「日曜夕刊」なる印刷物を無料で配付したのは、被告の朝日新聞取次販売営業の顧客に対するサービスたるにすぎず、もとより、商取引としてなされたものとはいえず、したがつて、右印刷物は商標法第二条にいう商品というに足りないから、これに本件商標の「日曜夕刊」という商標が附されたとはいえ、その配布をもつて右商標について右規定のいう「使用」に該当するものということはできない。そうすると、結局、本件商標は本件審判請求時たる昭和四五年二月四日まで継続して三年以上日本国内において、商標権者、専用使用権者及び通常使用権者のいずれによつても、その指定商品について使用されていなかつたものというべきであつて、審決が右商標不使用の事実を認めず、その登録の取消をしなかつたのは違法というほかはない。

三よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(駒田駿太郎 石井敬二郎 橋本攻)

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